長野研修 Vol.4
『フィンユールを、座って知る』
今回の研修テーマは、「家具を体感する旅」。
2泊目に訪れたのは、北安曇郡白馬村にある HOUSE OF FINN JUHL HAKUBA です。
デンマークの家具メーカー Onecollection が手がけるブランド「House of Finn Juhl」がつくった、フィン・ユールの世界を体感できるホテル。
昭和52年に建てられたペンションをリノベーションしている建物。
1階にラウンジとダイニング、2階には全5室の客室とラウンジ、地下にラウンドとバー、ショップがあり、置かれている家具はすべてフィン・ユールがデザインしたものです。






客室の全5部屋はそれぞれ異なる椅子を主役にした空間になっていて、メインとなる椅子の名前が部屋の名前になっています。今回は3部屋を予約し、それぞれの空間を体感しました。
「Pelican Room」ではペリカンチェア。

「France Room」ではフランスチェア。

「Chieftain Room」ではチーフテンチェア。


同じ建物でも、主役となる椅子が変わるだけで、部屋全体の空気まで変わる。そんな体験ができるホテルでした。
もちろん、それだけでも十分贅沢な時間。
でも、このホテルで一番印象に残ったのは、夜の時間でした。
夕食から戻ると、共同オーナーの岡崎さんが、フィン・ユールについてたくさんお話をしてくださいました。岡崎さんは、日本でのOnecollection「House of Finn Juhl」の家具製造にも携わり、図面をもとにフィン・ユールの家具づくりを支えている方です。
印象的だったのは、「図面には、どう見せるかではなく、どう使うかが描かれている」という言葉。
時代とともに材料や技術は変わっていきます。それでも、図面から「フィン・ユールはこの家具をどう使ってほしかったのか」を読み解き、本質は変えず、必要な部分だけを今の技術や材料に合わせて更新していく。
実際に椅子へ座りながら、
「ここは以前こうだったんです。」
「なぜこの形になっていると思いますか?」
一つひとつ理由を聞いていくうちに、それまで “デザイン”として見ていた椅子が、 “使い方”から生まれた形なのだということが少しずつ見えてきました。
特に印象に残った言葉があります。ショップにあるポスターにも書かれている、
「椅子はベッドと同じ。ベッドで寝返りを打つように、椅子もまた座っていても自由に姿勢を変えられるようでないといけない。」という言葉です。
BAKER SOFAでは、
「こう座ってみてください。」「今度は横向きに。」「脚を投げ出してみてください。」
そう声を掛けられるまま姿勢を変えていくと、どの座り方でも自然に身体を受け止めてくれることに驚きました。
家具屋として、これまで何度もフィン・ユールの家具に座ってきました。
でも、それは”椅子を試していた”だけで、”座る”という体験のほんの一部しか知らなかったのかもしれません。
「チーフテンチェアの役割は、誰が座っても偉そうに見えることなんです。」
そんなユーモアのある話も交えながら、一脚一脚に込められた考えを聞いていくうちに、フィン・ユールという人物の見え方も大きく変わっていきました。

“彫刻のように美しい家具”
そんな印象を持たれることも多いフィン・ユールですが、その美しさは見た目のためだけではありません。
姿勢を変えても心地よく過ごせること。
空間の中で、どう使われるかまで考えられていること。
建築家でもあったフィン・ユールだからこその視点が、家具のあちこちに込められていました。
もし、この話を聞かずに帰っていたら。
きっと私は、フィン・ユールというデザイナーを少し誤解したままだったと思います。

そのあと地下のラウンジへ移動し、おつまみを用意していただいている間にチェアをいろんな姿勢で座ってみます。昼間とはまた違う照明の中で椅子に身を預けると、時間が経つほどに、その心地よさが身体に馴染んでいきます。
チーズやナッツをつまみながら、シードルやワインを片手に過ごす夜。
お店で数分座るだけでは分からないこと。
姿勢を変えたり、仲間と話したり、お酒を飲んだり。
“家具は、過ごす時間の中ではじめて見えてくる魅力がある”
そんなことを、このホテルが教えてくれました。
まさに、「泊まれるショールーム」。
一泊では足りない。もう一日、もう二日と過ごしてみたい。
そう思わせてくれる場所でした。

翌朝は、オーナーの奥様が用意してくださった朝食をダイニングで。
ルブロに生ハムやチーズ、手作りジャムをのせていただきます。
白馬の森の中で、デンマークの家具に囲まれながら仲間と朝食を囲む時間。
まさに、「ヒュッゲ」という言葉がぴったりの朝でした。
Written by Kadota
